XILLIA

カレーの染みは落ちにくいのですぐ対処しましょう

 宿泊処ロランドはレイアの実家である。
 宿代がもったいないと自分の部屋で寝ることにした時点でレイアは客ではなく、従ってテーブルを囲む仲間の元に食事を運ぶくらいの仕事をさせられるのは当然であった。
 渡された皿からマーボーカレーのスパイシーな香りが立ち上る。
「まあ、1日中手伝いさせられないだけマシだよね〜」
「それ運んだら、あんたも一緒に食事にしなさい」
「はーい」
 美味しそうな匂いを前にして、お腹も食事にしたいと訴えている。両手に皿を持ったレイアは小走りにテーブルへと向かい――
「おまた……っうわああぁあぁっ!?」
 床の継ぎ目に足を引っ掛けた。
 バランスを取ろうとした両腕が大きく動く。
「レイアッ!?」
 叫んだのは誰だったか。伸ばされた手はむなしく届かず、2つの皿が宙を舞う。

 べしょり。

『イヤー!』
「ああっ、ティポ!?」
 皿から飛び出したマーボーカレーのルーは放物線を描いた結果、エリーゼの横に浮かんでいたティポの上に落下した。
 目をばってんにしたティポからぽとりと零れ落ちる豆腐。
「あああああ、ごめんティポ!」
 レイアが両手を無意味にばたつかせる間にジュードがテーブルの上の布巾を持って立ち上がり、ローエンは床を拭くものを借りようと厨房へ足を向ける。
 ひとまずべったりとくっついたカレーを拭いはしたものの。
「ティポが黄色くなっちゃいました……」
『カレーの匂いがする〜』
「うむ。うまそうな匂いだな!」
『食べないでー!?』
 腹の虫を鳴かせながらミラが近づいてくるものだから、ティポは身をよじってジュードの後ろに回り込んだ。
「あまり動かないで。こすれると余計にしみこんじゃうよ」
 振り向いたジュードがグローブを外した両手でティポを掴む。
 あいかわらずのグニグニとした謎素材ではあるが、一応は布、だろう。足の付け根とか縫い目もあることだし。
 うん。ひとつ頷くと、ジュードはエリーゼの前にティポを差し出した。
「洗ってあげるから、中に入ってるものがあったら全部出して」
「は、はい。ティポ!」
『もがもが、おえぇ〜っぷ』
 エリーゼが両の掌をお椀の形にする。身をよじるティポが口を開くと、ドロッセルからもらったというペンダントに道中で手に入れた『ピンクかわいい』ものが吐き出された。
 アルヴィンの眉がげんなりと下がる。
 一度見たことがあるとはいえ、やはり大切なものを取り出す時の効果音ではない。
 しかし真剣な眼をしたジュードはそんなことは気にせず、ティポを受け取るとレイアを呼びながら2階へ上がってしまう。慌てて追いかけるエリーゼ。
「レイア、ぬるま湯用意して。それと台所用洗剤!」
「わ、わかった!」
 ジュードは部屋に備え付けられた風呂場のドアを開け、鋭く指示を飛ばす。さながら急患を前にしたようだった。
 レイアが足音を立てながら湯を用意する間に袖を折り返し。
「はいティポ、口開けて」

 ズボッ。

 左手をティポの口の中へと突っ込んだ。
『!? ほんなふぉほ、さわっひゃらめぇ〜』
「ティポ、ジュードが綺麗にしてくれるから、少し我慢してくださいね」
 エリーゼが胸の前で拳を握る。
 全体的に黄色っぽくなってしまったティポを見つめる釣り上がった蜂蜜色の瞳。触ってひっくり返して、ジュードは眉間にしわを寄せる。
「うーん、中は綿っぽいけど湿気を吸って膨らむってことは別の素材なのかな。丸洗いするとまずいかもしれないよね……」
 すでに周囲の声は耳に入っていない。
 レイアが用意したぬるま湯でタオルを濡らし、まずは目立たない口の裏側をこすってみる。
 くすぐったそうにティポが身もだえた。
「うん、色落ちはしなそう。それじゃ、ティポ。暴れないでね」
『ひょえ〜!』


 間。


『こんなにたくさん触られたの、ボク生まれてはじめて……』
 しおしおと頭を下げてティポが呟いた。
 濡れてぐったりとした体はいつものように浮く気力もないらしく、ジュードのなすがままに新しいタオルで叩くように撫でられている。
「お疲れ様。これで綺麗になったと思うけど」
『濡れて体が重い〜』
 ため息を聞きつけたミラ(遅いので様子を見に来た)が胸を張る。
「何、その程度、イフリートの力ですぐ乾くぞ」
『イヤー! 燃やされるー!?』
「ミ、ミラ、急激な温度変化は布を傷める可能性があるから、ね?」
 ティポがジュードの手から飛び出した。
 今しもイフリートを召喚しようとしていたミラは、ジュードの言葉に手を止めた。シルフが結ったという独特な毛先がどことなくしおれる。
「む、そうか」
「あの、気持ちだけ受け取っておきます」
 拳を握って覗きこむエリーゼの隣で、まだ濡れて濃い色になっているティポがカクカクと頷いた。
 わずかに唇を尖らせたミラの横でレイアが肩を小さくする。
「ごめんね、わたしがカレーこぼしちゃったから」
『レイアはうっかりしすぎー!』
「うぅ……、以後気を付けまーす」
 うなだれるレイア。
 さらに何か言いかけたティポをタオルを持ったエリーゼが抱きかかえる。洗剤の匂いがやさしく鼻をくすぐった。
 エリーゼの唇に笑みが乗る。
「でも、ジュードに洗ってもらったおかげで、前よりぴかぴかになりました」
「ティポさんは戦闘中も活躍されていますからね。気付かないうちに汚れていたのでしょう」
 よかったですね、とローエンの穏やかな声が降ってくる。
 腕の中のティポもどことなく気持ちよさそうで、エリーゼは改めてジュードに笑顔を向けた。
「ジュード、ありがとう、です」
「どういたしまして」
 にこにこと言葉を交わす2人の様子を眺め、壁に背を預けたままアルヴィンは大きく息を吐き出した。
「ぬいぐるみのシミ抜きまで完璧とか、お嫁さん通り越してお母さんだな」
「ジュードは昔っからお母さんだよ」
 レイアが掌を上にして肩をすくめる。さもありなん、アルヴィンが喉の奥で笑う。
 てっきり「僕は男だよ」とか言うかと思った優等生は、これまでも幼馴染にさんざん言われていたのか、慣れたように小さなため息をつくだけだった。
「はいはい。って、レイアも服にカレー跳ねてるよ」
「へ? うわ、ホントだ! 洗ってくる!」
「だからこすっちゃだめだってば……!」
 着替えを取りに駆け出すレイア。その手が汚れた場所をぐしゃっと掴むのを見てジュードが慌てて追いかける。
「くくっ。お母さんは大変だねぇ」
「……ところで、いつになったら食事にできるのだ?」
 掌を添えたミラのお腹が、ぐぅっと盛大な音を奏でた。
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