XILLIA

寂しいと言えたら楽だった

「ジュードやレイアにはちゃんといるじゃないですか! みんな――」
『そんな人にエリーゼの気持ちがわかるもんかー』

 どうしてか、とっさに体が動かなかった。
 レイアが追いかけてくれてよかった。どこにアルクノアが残っているとも限らない、魔物が徘徊しているともわからないこんな場所でエリーゼをひとりにするわけにはいかないから。
 それにしたってふたりなら安全というわけでもない。
 早く追いかけないと……いや、治療したとはいえアルヴィンの怪我は浅くなかった。僕が行ったらいざというとき治癒術を使える人がいなくなる。ジャオさんが目の前にいるのだから、今すぐ全員で移動するわけにもいかない。まだ聞いておきたいことがある。
 きっと、だからだ。足が動かなかったのは。
「頼む。あの娘っ子をこれ以上一人にせんでやってくれ」
 いくばくかのやりとりの後、密猟者を追って、ジャオさんは行ってしまった。
 ようやくエリーゼとレイアを追いかけるために歩き出す。やっぱりまだ魔物が残っている。早く、2人に追いつかなくちゃ。
 だったら走ればいいのに。
「アルヴィン、傷は大丈夫?」
「心の傷は重傷だよ」
 冴えない表情をしたアルヴィンに話しかけたりなんかして。
 何をしてるんだろう。どうしてこんなに足が重いんだろう。
 早く、2人のところに行かなくちゃいけないのに。
 エリーゼは大丈夫だろうか。会いたいと泣いた両親はもうこの世にいない。ずっと一緒だったティポも以前の関係ではいられない。
 ひとりぼっちだと言った。

 家族がいないから、ひとりぼっち。

 ――僕は、両親がいるから、ひとりぼっちじゃ、ない。

「あ、れ……?」
 目頭が熱い。雫が溢れないように、慌てて数度瞬いた。
 違う。辛いのはエリーゼだ。なのに。
 ひとりでたべたつめたいごはんとか、おやすみもいえずにもぐりこんだベッドとか、そんなものを思い出すのは、おかしい。
 おかしい。こんなのは嘘。だから、気のせいだ。
 蓋をする。難しく考えないようにするのは得意。
 考えなければいけないことは、もっと他にある。エリーゼの過去。アルクノアの目的。イスラさんはどこまで知ってるんだろう。
 ようやく視界に映ったエリーゼとレイアに向けて、足を大きく踏み出した。

* * *

「カン・バルクまでは雪道だ。休んでからにしたほうがいい」
 エリーゼにかける言葉も見つからず、会話らしい会話もないまま戻ったシャン・ドゥで。カン・バルクへ向かうことに決めた僕達はユルゲンスさんの忠告に従って宿をとることにした。
 ついでだから岩孔で応急処置した傷の具合を確認しておこうと男女に別れた部屋のベッドにアルヴィンを座らせる。
「どう、痛みはない?」
「ぜーんぜん。ジュード君が治療してくれたんだから大丈夫だって」
「ならいいけど」
 持ちあげていた腕から手を離す。肩を回したアルヴィンは傍らに置いていたコートに袖を通しながら「で?」とこちらを見上げてきた。
「何が?」
「エリーゼ姫のところに行かないでこんなことしてるのは俺に言いたいことでもあるのかなと思ったんだけど?」
「こんなことって、甘く見ていい怪我じゃなかったでしょ。別に、言いたいこととか……」
 覗き込む鳶色の瞳に目を合わせていられなくてうつむいた。そうして、ひどく自分が情けないことに気付く。
 エリーゼに対してどうしていいかわからなくて。不用意に声をかければ傷つけてしまいそうで。
 僕は、アルヴィンをだしにしてエリーゼの前から逃げたのだ。
 ふっと、ため息とも笑声ともつかない音が聞こえた。
「『そんな人にエリーゼの気持ちがわかるもんか』……ね」
 肩が跳ねる。
 ティポに言われた言葉。エリーゼの本音。
 顔をあげれば、立ち上がったアルヴィンの大きな掌に頭を押さえつけられた。髪の毛をかき混ぜられる。
 やめてよと言おうとして、なぜか唇がうまく動かない。
 胸が熱いのはなんでだろう。
「確かにお姫様の気持ちはお姫様にしかわからないだろうさ。けど誰だってそうだろ? ジュード君の気持ちもジュード君にしかわからない」
「何……」
 僕の、気持ちが、なんだって?
 辛いのは僕じゃない、エリーゼだ。だから、ねぇ、アルヴィン、蓋を開けないで。僕は僕の気持ちなんか、わからなくていいんだ。

 ――エリーゼだけがひとりぼっちなの?
 ――ずっとティポがいたエリーゼこそ、ひとりで食べるご飯の味を知っているの?

「生きていればってわけじゃないよなぁ」
「アル、ヴィン」
 軽い口調で吐き出された言葉は、その実ひどく重たい響きで部屋に落ちた。
 ほの暗い部屋のベッドで眠る女性の顔を思い出す。
 アルヴィンのお母さんは生きているけど、アルヴィンのことを見ていない。大切な人に、他人のように接せられるのはどれだけ辛いことだろう。
「さみしい?」
 零れ落ちた問いに答えはなく、かわりに髪の毛を思い切りかき混ぜられた。もはやそれを止めようという気も起らない。むしろ、心地よさを感じて目を閉じた。
 こんな時、どうしたって、彼は大人で自分は子供なのだと思い知る。
「だから、おたくの気持ちが間違いなんてことはないさ」
 知らなくていいと、蓋をしたはずなのに。認められればこんなにも胸に熱いものがこみ上げる。
 ……いいの?
 こんなにも醜い気持ちを、情けない思いを持っていていいの? 許されるの?
 ――アルヴィンは、許してくれるの?
 こらえたはずの熱いものが眦にたまっていく。
「ありがとう」
 目を開けて、頭に乗せられたままの掌に左手を添える。
「でもその台詞、矛盾しちゃったね」
「ん?」
 きょとりと瞬く鳶色に頬が緩んだ。
「アルヴィンは僕の気持ち、わかっちゃったんでしょう?」
 僕の気持ちは僕にしかわからないなんて、嘘じゃないか。
 言えばアルヴィンは肩をすくめて笑ってみせた。
「ま、そこは年季の違いってヤツ? ほれ、飯食いに行こうぜ。お姫様も腹が膨れりゃ少しは落ち着くだろ」
「あ、うん」
 離れた掌を視線で追いかける。
 まだエリーゼにかけるべき言葉はわからないけど、少なくとも、逃げ出したくなるような焦燥は消えていた。
 どうして、わかってくれたんだろう。
 自分でも名前をつけられないでいる気持ちを。必要ないからと蓋をしたはずの気持ちを。
 わからない。
 ねえ、いつか。
「……僕もそんな風になれるかな」
「優等生?」
「ううん、なんでもない」
 首を振って追いかける。


 後になって思い返せばアルヴィンの気持ちはアルヴィンにしか――僕にはわからないって牽制だったのかもしれないけれど。
 それでも、僕は、本当に嬉しかったんだよ。
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